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アンジェラスの鐘
エッセイの題材は、学生との思い出、コロナ禍など現在と今後の在り方、夢の分析、フランクル、ヒルティ、河合隼雄などから学んだ人生の意味に関する考察、また魂理解、神義論的考察など多岐に及ぶ。それらは著者が長年思い巡らし、自身の生活経験を踏まえて深めてきたものである。 それらの考察は、著者の人間形成の核にある挫折と立ち直りの経験を中心にめぐらされている。すなわち、最初に入会した修道会での挫折を経た後、父をはじめとする周囲の励まし、聖書やフランクル、ヒルティなどの言葉に支えられ、立ち直り、予想もしなかった神の導きと配慮を実感するという信仰体験である。 また、将棋棋士であり、著者の父でもある加藤一二三氏との親密な、楽しい信仰の分かち合いの対談では、彼の大らかでまっすぐな、しかもとても深い、実践的なカトリック信仰を学ぶことができる。 本書全体にわたって心理学、精神医学に基づく人間分析の豊富な知識と考察が、個人的な神の導き、信仰体験の伝達に一層の深みを与えており、読者はそこから、一つの宗教の枠を超えた希望への気づきを得られるであろう。 本書は大学での教材にも使われる予定であり、その意味で、キリスト教を知らない人にとっても、信仰のエッセンスをやわらかく伝えるのに役立つ視点で書かれている。無神論との対話という観点をも含み、信仰を押し付けるのではなく、人生の希望とは何かという考察が教育的な配慮をもってなされている。 |